湘南寺田屋

個人の記録用。元々は山スキーやクライミングの記録用だったが今は料理やらオルガンやら日々の雑多な記録多し。2016−21間はシドニー滞在していた時の記録。23.7月から山の記事はサブブログに移管。以前の記録もサブブログでアーカイブ。

奥穂高南稜日帰り

かつてウェストンが嘉門次とともに初登した奥穂南稜は残雪期によくトレースされているが、敢えて当時と同じ無雪期に行ってみた。現在もトレースのないこの岩稜でひとりきりの岳沢の秋を満喫した。標高差1700mの日帰り。

「さわやか信州号」(狭くてとてもさわやかとはいえない)で6時に上高地着。河童橋で写真を撮って6:20出発し、岳沢ヒュッテに7:50着。雪崩による倒壊後まだ仮修復である。営業再開は早くても再来年とのこと。

f:id:teradaya:20060929173400j:image 河童橋から早朝の穂高連峰

f:id:teradaya:20060929173438j:image 岳沢ヒュッテの仮小屋


ここから重太郎新道から分かれて滝沢大滝直下の取付点を目指す。南稜のトリコニーと呼ばれる兄弟のような3岩峰がよく見える。ガレの先には滝下まで氷化した雪渓が100mほど残っている。この時期はもう解けていると思っていたが大誤算である。運動靴のうえピッケルもないので騙し騙しガレとのコンタクトラインを行く。最初は右側(左岸)を行くものの雪渓が崩壊し通行不可となり対岸にトラバースする。ツルツルの氷の斜面を運動靴でわたるのは恐怖であり、今回の核心ともいえる微妙さであった。何とか無事にわたりきるが、右岸側は雪渓が斜面と1m程度は乖離しており、これも恐ろしくて通れない。取付点まで50mほどであり、そこからは左にルンゼを登るのであるが、しばし考えた後右岸の小尾根を高巻いてルンゼに降りることとした(高巻きはよほど気をつけろというのは重々わかっていたはずなのだが)。雪渓から草付を登り3級程度の岩登りを交えて10m程登る。濡れたところも多くクライムダウンはしたくないところである。這松をつかんで強引に右トラバースをして尾根を回り込むとようやく大滝が望めたが、そこにいたるまでには垂直の草つきトラバースが必要である。もはや戻るわけにもいかず、木の枝をホールドに慎重に行く。これが抜けたらガレ場に落ちて雪渓下に転がり落ちるなぁとビビりながらどうにか恐怖のトラバースを終え、8:50にようやく滝下に降り立つ。心臓はばくばくと音を立て、冷や汗をじっとりとかいてしまった。(帰路ヒュッテの親父さんと話をした際にも真っ先に取りつきについて尋ねられ、時に事故があると聞かされた)。

f:id:teradaya:20060929173511j:image 取り付きへ(トリコニーが左上に見える)

f:id:teradaya:20060929181404j:image ようやく滝沢大滝下へ。ここから左のルンゼに入る。

        

9:00、気を取り直してルンゼに取り付く、草つき混じりの岩場でちょっと微妙な部分もありいやらしい。最上部は小ハング状をえいやと乗り越え、長い草付帯にでる。這松をジャングルジムのように登り、3級程度の岩を攀じ、アザミの草むらを這い登る。9:40、2350m地点でスラブ状岸壁帯に突き当たる。弱点を読んで左上の凹角を7~8m登り、最後はチムニー上をやや微妙な一手でぐいと越すとようやくトリコニーの岩稜の末端に出る。1峰の取り付きは右側の滝沢側からであり、徐々に稜線に上がっていく。岩は硬く順層なので快適である。1峰ピークは小さな岩塔であり露出感があり高さを感じる。2峰とのコルにクライムダウンし、さらにナイフリッジとなった稜線をほぼ忠実に行く。北穂の東稜や剣の八ツ峰よりは難しい感じがするのは年のせいか。

f:id:teradaya:20060929173557j:image 凹角を抜けた草付帯から振り返る

f:id:teradaya:20060929173617j:image スラブ帯(左上に越えていく)   

   

このあたりは、左にコブ尾根からジャンダルム方面、右手には北尾根と明神を従えた前穂がよく見え岳沢のど真ん中にいるような気になる。天狗の踊り場である。2峰は大きな岩峰であり頂稜を越えていく。10:30、2800mのこのピーク直下で小休止とする。誰一人いない初秋の穂高を満喫する。ウェストン、嘉門次一行が初登したときは雨天だったようだが、2回目に奥さんをつれて再登したときはこんな快晴の一日だったようである。扇沢が眼下に流れているが、ガレだらけの急傾斜である。春には大橋さんが滑っているが下部にある核心の滝はここからは見えない。10:40、再出発。かすかに踏み跡らしきものも出てきて快適な岩稜歩きで3峰ピークを過ぎ、吊尾根に続くガレの尾根に出る。ここからはもう手は使わない山歩きである。11:30、吊尾根3100m地点の南稜の頭に出る。11:40、賑わう奥穂山頂に到着。

f:id:teradaya:20060929174937j:image 岳沢ど真中(前穂方面展望)

f:id:teradaya:20060929173637j:image トリコニー1峰を振り返る

f:id:teradaya:20060929173657j:image 扇沢(滑れる?)とコブ尾根

f:id:teradaya:20060929173726j:image ようやく吊尾根の南稜の頭

f:id:teradaya:20060929174106j:image 吊尾根から見た南稜全景


ここに来るのは10数年ぶりである。槍、常念、笠、後立山の山々、乗鞍、御岳、遠くに富士も見える。涸沢側に直登ルンゼが一気に落ちているのを観察する。祠から一段降りたあたりがドロップポイントであろうか。傾斜は強いが雪が緩んでいれば行けないことはない気がする。写真を何枚か撮っておく。来春行けるであろうか。

12:00、下山開始。吊尾根を早足で快調に飛ばしていたが、突然つまずき気がつくと一回転してお尻から着地。2、3分痛くて座り込む。幸い頭も打たず骨も異常なしであったが、これがマッターホルンなら滑落、死亡である。気をつけなくては。再び歩き始めるも、ペースはがた落ち。一歩ごとに尻が割れるように痛い。そろそろと休み休み下山し、岳沢ヒュッテ通過14:30、バスターミナル16:30到着。岳沢ヒュッテから下山までは登りよりも時間のかかる体たらくであった。

f:id:teradaya:20060929173813j:image おなじみの風景

f:id:teradaya:20060929173908j:image 直登ルンゼ(滑れる?!)

f:id:teradaya:20060929173949j:image 奥穂より上高地方面を望む

[メンバー]単独

[行動Time]

河童橋 06:20

岳沢ヒュッテ 07:50/07:55

南稜取付(滝沢大滝下)08:50/09:00

スラブ帯下2350m 09:40

トリコニー2峰2800m 10:30/10:40

南稜頭 3100m 11:30

奥穂山頂 3190m 11:40/12:00

岳沢ヒュッテ 14:30/14:40

バスターミナル 16:30

[登行高度]

1700m(300m/時間)