湘南寺田屋

個人の記録用。元々は山スキーやクライミングの記録用だったが今は料理やらオルガンやら日々の雑多な記録多し。2016−21間はシドニー滞在していた時の記録。23.7月から山の記事はサブブログに移管。以前の記録もサブブログでアーカイブ。

八甲田山酸ケ湯ベースの深雪滑降

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日時:2006年1月3日(火)~6日(金)両夜行

記録:

1月2日(月)

 22:30、東京駅八重洲口発の青森行き夜行バス「ラフォーレ号」に乗るべく集合。H瀬、S木両氏とも手提げバッグ+小型リュックのいでたち。もちろん私もそうである。バスにスキーの持込ができないため、すでにベースとなる酸ケ湯温泉に送付してある。バスは1号車のみ。ほぼ20名で独立シート3列の車内はいっぱいである。シートは決して大きくないが、リクライニングさせて毛布を掛ける。30年ぶりともいう大雪が伝えられており時間どおりつくものか心配しつつもとりあえず睡眠体制に入る。

1月3日(日)雪

08:00、雪の降る中定刻に青森駅に到着。待合室で08:40の路線バスを待つ。パンフレット類に混じって八甲田山スキーマップも置いてある。2万5千分の一のカラー版で重宝する(なお、酸ケ湯のHPからもダウンロードできる)。

酸ケ湯に向かうとどんどん雪が増え、両側の雪壁の道を走り10:00に酸ケ湯に着く。天候はあいにく雪で視界もないことから、本日は足慣らしのため八甲田ロープウェイの非圧雪コースにいくことする。次のバスが10:25発とのことなので、チェックインは後回しにしてスキー板の到着を確認し急いで身支度をする。とりあえずビーコン、スコップ、ゾンデ等を装備してバスにのり、10:45にロープウェイ乗り場に到着。

4900円で5回券を各自購入して乗り込む。周りはボーダーやファットスキーを装備した者がわんさかといる。ロープウェイ終点は約1300mの田茂萢(たもやち)岳山頂直下でアオモリトドマツの木々の樹氷原が広がるはずであるが、西からの強風と雪で視界がまったくない。とりあえずフォレストコースに行ってみる。最初の急斜面を視界がないまま慎重に滑降するが、雪は軽く心地よい。なるべくコース端の踏まれていない新雪をひろいながら快適な滑降を続けると下部は緩斜面の通路となりあっという間に終わりとなった。左の沢(モッコイ沢)&ロープウェイ直下あたりに入ってみたいが、まったくの初見なので止しておく(マップでは危険エリアマークがついているが、翌日のガイドツアーではがんがん入っていることが判明)。この日はもう一回フォレストコースを、そしてダイレクトコース(下部はゲレンデのこぶ斜面)をすべり、16時の宿バスに乗って戻る。

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宿の湯治部屋は予約時は6畳といわれていたが実際は10畳+縁側でストーブ&テレビもあって快適であった。早速酸ケ湯名物の檜千人風呂につかるが、もうもうと立ち上る湯気の中、白濁した酸性の強い湯は結構身体に効き、あがるとしばらくふらふらするほどであった(翌日からはすぐ慣れた)。眼鏡を掛けたままの広瀬さんが「混浴を守る会」から“マナーの悪いお客様”とみなされないか少々心配であったが)。今回は自炊は遠慮されたしとのことであったので、食堂で食事をいただく。ぶり大根やらフキと山菜の煮物、温泉たまご等なかなか豪勢であった。はたして山屋としてはいかがであろうかなどと話しつつも、「厳冬期は無理せず快楽を」(S氏)との意見に深くうなずく中年隊であった。

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1月4日(水)雪

昨日同様の風雪。強風のため、ロープウェイは午前中は運休とのこと(25m以上になると運休だそうである)。午前中は湯治とし、午後のガイドツアーに参加することとし申し込みをする(宿泊者は2000円/半日。一日だと3000円)。11時半に部屋の電話がなり、ロープウェイ再開とのことで12時に出発とのこと。宿バスに乗り込むと、スキーヤー20名、ボーダー10名程が参加するようである。ガイドは4名。

ロープウェイ山頂で集合し、13:40に南側ダイレクトコース側に出発、すぐに右のフェンスをくぐり深雪斜面に入る。モッコイ沢コースというらしく、昔の「山スキールート図集」ではコースとして記されている。スキーとボードの2班にわかれ視界がないがガイドが一人滑ったあとを各自突っ込む。昨日よりも重さを感じるが腰くらいまでのパウダーをすべる。3m以上の積雪というが、底を感じる。スキーの浮き上がりのタイミングをとりつつショートターンで飛ばす。右にトラバースをして斜面を移り沢側まで滑り降り、沢を越えて下部の緩斜面の廊下状ルートからフォレストコースに合流。概ね足並みはそろったメンバーであり45分ほどでロープウェイに戻った。再度上に上がり、今度は板を担いで田茂萢岳山頂に5分で登り、ノートラック斜面をひと滑りしてフォレストコースを横切りふたたびモッコイ沢に斜面を選びつつ入った。新雪斜面を上手に選んでいくのでなかなか滑りは楽しめる。

4時のバスで宿に戻り、またも極楽の風呂と夕食。しかし、天気予報では明日の午前中は少しであるが冬型が緩むとのこと。S木さんも明日夕には下山となるので、やはりここは山屋の気合を示すべく大岳を目指すこととする。今回は宿にパソコンを持ち込んでおり、カシミール地図ソフトで酸ケ湯-仙人岳コル-大岳と登り、大岳-大岳避難小屋コル-酸ケ湯沢滑降-酸ケ湯のルートを作成しGPSに入れる。酸ケ湯沢は“上部の3段の大斜面の滑降がすばらしい”そうである。430MHトランシーバや赤布、ツェルト等準備を整える。青森地酒、泡盛、中国紹興酒等飲みながらくつろぎつつも、早めに就寝する。

1月5日(木)雪、午前中やや弱く午後は吹雪

6:30に起床、バイキングの朝食(といっても玄米、おかゆ、煮物、豆、べったら漬、梅干、納豆、温泉たまご等の和風限定)をとり、お茶をもらって出発である。S木さんは朝風呂にも入っていた。

07:56酸ケ湯発。除雪された道路沿いに夏道入り口を探すが、目印の神社が雪に埋まり見つからず、適当なところから左の除雪壁を乗り越えてとりつく。ひざ上から腿くらいまでのラッセルで雪原を進み大岳から西に伸びる尾根を回りこんで地獄湯沢を高巻くように進む予定であるが、視界がないことからついつい尾根に登りがちになる。地図とGPSで慎重に進む。08:40に一度小休止を取るが、その後はひたすらもくもくとラッセルをする。

 

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稜線の大岳・仙人岳コルに近づいて来るころ、一次的に雪が弱まり視界が効き地獄湯沢の底を単独行で登る登山者を見つける。後にわかったが仙人岳ヒュッテには樹氷の写真を撮る人たちがかなり入っているようで、正月には10数名が越年したそうである。地元紙の紙面に写真も飾られていた。単独行者もどうやらヒュッテまでであったようである。我々はコルには向かわず、大岳側にトラバース気味に高度を上げながら進む。夕べから断続的に雪が積もっているが、表面から15cmほどのところに顕著な弱層があるので気をつける。天候は徐々に悪化し、稜線上に出て大岳に向かう頃には強烈な西風の吹雪となった。樹氷を縫いながら深雪のラッセルを続け高度1500mを越え山頂まで距離で約200mまで迫るが、さすがにここで断念することとした。前日のロープウェイ上で温度マイナス14度くらいであったのでおそらく同等の気温であったであり、風速も20mは越えていたと考えられる。時刻は11:05分。

体制を整え、往路を戻ることとした。風雪を避ける場所がなく、シールをはずしてしまうのもなかなか骨が折れる。効かない視界の中、T田をトップにコル方面の検討をつけ滑降を開始する(後にこれが判断の誤りと気づくのであるが)。足元の高低が見分けられないので苦労するが、深いパウダーを慎重に滑り降りる。雪原に降り立ち、下降路を探すが、まったくのホワイトアウトで目印となるものもなく苦労する。ここでGPSを見るとかなり東に滑りおりているようである。実感とはかなり異なるので受け入れ難いが、再度大岳、コルの位置をGPSデータから確認するとやはり往路と90度ずれて大岳・小岳のコル近くに滑りおりているようだ。西からの風を避けたいためにどうしても東側にずれてしまったようである。

H瀬さん、S木さんに声をかけ、現在位置を慎重に確認することとする。ちょっと立ち止まっているだけで、すでに滑ってきた大岳の位置もわからなくなるほどの風雪である。緯度、軽度データから地図上の正確な位置を同定し、大岳・仙人岳のコルの方向をコンパスとGPSで再確認し意思統一をする。11:45分、改めて進路を西に変更して稜線を乗越すべく進むが深い雪になかなか進めない。数10mではあるが登り返しが必要であり、シールを再装着することとした。S木さんをトップにシール登行する。途中一度キックターンをした際に私のスキーはズルリと後ろに滑り転倒してしまう。見ると両方のシールがトップフィックスを残しみごとに外れている。雪の中でもがいてビンディングをはずして再接着を図るがまったく無理である。覚悟を決めてザックから修理具を取りだしガムテープと針金で応急手当である。このときやむを得ず一次的に手袋をはずして作業したが、やはり低温のなか危険である。手袋システムは再考しなくてはと思った。風強くコールが届かなかったのでH瀬さん、S木さんには様子見にもどってもらうこととなり申し訳なかった。どうにか修復し登りなおす。しばらくすると再度右シールが外れたが、傾斜が緩んだので片足で乗り切る。2人に合流し再度現在地同定をし、西に地獄湯沢に帰路を取ることとする。

雪は引き続き強く降り、登ってきた単独登山者のトレースも見つからない。地獄湯沢は傾斜が緩く、残念ながら滑降は期待できない。というより、ひたすらラッセルである。浅い沢で樹木も多く基本的に雪崩の心配はない。しかし沢芯の吹き溜まりに入ると進めないほどであり、慎重に進路を選び左岸側壁をラッセルしていく。風も弱まったのでようやく一服し行動食と暖かいテルモスの飲み物を取る。すでに時刻は13:10となっていた。再び下降を続け途中右に向かえば酸ケ湯に直接帰る夏道になるが、この雪では効率的とはいえず、沢を下って車道にでることとする。14:40、ようやく車道の橋に出るが、除雪はきていない。気を取りなおし温泉とごちそうを思い浮かべつつさらに膝下ラッセルを進め、ようやく除雪終点にたどり着きスキーをはずした。酸ケ湯についたのは15:10。なかなかの一日であった。

風呂に入り、ビールをのみながら、「久々にマジになったよ」と笑い会う。緩傾斜と無視界は時によってはきわめて危険であることを再確認した一日であった。

17:30の従業員バスで青森に一足先に下山するS木さんを見送り再び温泉に入った。その後の雪は降り続き、翌日までに50cmの新雪があった。明日は小高気圧が本州上に来るので天気は回復するようである。

1月6日

 H瀬さんは休憩の一日とのことなので、自分は午前中再びガイドツアに参加することとする。銅像コース等山の裏側に滑りこむコースを期待したが、残念ながら新雪が多すぎ再度モッコイ沢沿いコースとなった。5日、八甲田のゆかりのスキーヤー三浦敬三氏が亡くなったとのことで参加者それぞれ感謝と哀悼の意を捧ぐ。やや重いが、腰上までのパウダーを楽しみ、八甲田の休日の仕上げとする。13時20分のバスで酸ケ湯に戻るが、憎らしいことに急速に空は晴れ始め宿につく頃には初めての青空となった。

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 再度温泉を楽しみスキーを発送し、従業員バスのお世話になって青森へ。運転手氏お勧めの駅前焼き鳥屋で腹ごしらえをして、再び夜行バスに乗り込んだ。

(所感)

・大岳アタックは少々甘く見ていたためか、結構しょっぱい経験であった。八甲田のような緩い地形の山で深雪・緩傾斜の場合、視界がないと地図&コンパスではかなり現在地確認が困難となる。特にスキーで下降すると一気に位置が変わるのでなおさらである。

・この点、GPSはずいぶんと役だった。ほとんど無視界計器飛行のようなものである。ぜひ1パーティに1台装備したいものであるが、しかし実際には結構操作になれも必要である。また、操作を手袋をして行うのも結構大変であり、事前に練習は必須である(私はオーバー手袋をはずしてフリース手袋で行ったが、そのうちに氷が付着してオーバー手袋がつけられなくなってしまった。)。

・また、GPSは単三電池2本程度で外に露出させて使用することから、低温対策が大事である。以前愛山渓でアルカリ電池で使用した際はすぐに電圧が下がり使えなかったので、今回はリチウム電池をいれておいたが何とか最後までもってくれた(それでも途中なぜか何度か電源ダウンした。なお、単三リチウム電池富士フィルム製しかなく入手が結構難しいので注意。)

・緯度経度データから現在地を確認するのは精神的にとても助かる。これを行うためには事前にカシミールソフトで10秒間隔でメッシュを入れた地図を作っておくことが必要である。

・八甲田のような地形での深雪においては、下降コースの選定が重要である。今回は下りも滑降ではなくラッセルとなり、登りよりもかえってしんどいほどであった。時間の読みにおいては十分注意する必要がある。

・今回ロシニョールバンディットB2(170cm,113-76-103)を使用したが、以前の初代バンディットに比して深雪では格段に楽であった。ガイドツア参加者はぶっとい板を履く者も多かったが、まったく遜色はなかった。特に以前の板では少しバランスを崩し片足加重となった際に沈みこんでリカバーが難しかったが、B2では浮力を保てるのでかなり体勢を立て直すことが容易であった。登りでの扱い等を考えれば、このあたりがちょうどバランスが取れるのではと感じた。

 

(行動記録)1/5 酸ケ湯08:00-1000m地点 08:45/08:50 – 大岳直下 11:05 – 小岳とのコル周辺(進路確認)11:28/11:45 – 仙人岳とのコル周辺12:40 – 地獄湯沢1200m地点13:10/13:15 – 車道14:40 – 酸ケ湯15:10

(登行高度)1/5 700m (滑降高度)1/3 1800m, 1/4 1200m, 1/5 700m, 1/6 1800m

(メンバー)T田(L、記録)、H瀬、S々木

(地図)1/2.5万 八甲田山

(宿泊、交通等データ)

・酸ケ湯温泉

  • 〒030-0111 青森市荒川南荒川山酸ケ湯沢50 (宅急便受付可能)
  • TEL (017)738-6400 FAX (017)738-6677
  • 6畳間(湯治部屋)1泊2食 6,450円(2泊だと7,450円)
  • 山スキーガイド料 1日:3000円、半日:2000円

・往路

  • 夜行バス 東京駅(八重洲南口集合)22:30発-青森駅着 08:00 [往復17,000円
  • JR路線バス(017-723-1621):青森駅発0840→酸ケ湯着1000着 [1,300円]

・復路

  • JR路線バス:酸ケ湯発15:55→青森駅着17:15着[1,300円]
  • 夜行バス 青森駅発 21:00 – 東京駅 06:30

*酸ケ湯温泉:http://www1.odn.ne.jp/~sukayu/

*夜行バス http://www.bus.or.jp/bus/

*JR青森路線バス: 017-723-1621

(http://www.jrbustohoku.co.jp/sightseeing_img/aomori-sukayu2.html)